にじみ出る豊かさを掴む

「和魂漢才」を掲げる川田智也氏。日本の食材や精神と、中国料理の技術や哲学、その両方に敬意を表し、調和を大切にする。そんな川田氏が新時代にかける思いを、料理で表現してくれた。

July 15, 2023 Photo Haruko Amagata Text Izumi Shibata
August 22, 2023 Last modified

「和魂漢才」を掲げる川田智也氏。日本の食材や精神と、中国料理の技術や哲学、その両方に敬意を表し、調和を大切にする。そんな川田氏が新時代にかける思いを、料理で表現してくれた。

茶禅華。中国料理の随一の高級食材、干し鮑。三陸吉浜産の最高品質のものを、淡い味付けで仕上げる
中国料理の随一の高級食材、干し鮑。三陸吉浜産の最高品質のものを、淡い味付けで仕上げる。干し鮑特有のパワフルで格調高い旨み、香り、食感を表現。昆布入りの文山包種茶を添える。

令和元年5月1日。川田智也氏は北京にいた。「日本人が作る中国料理とは何か」を徹底的に追求する川田氏らしい巡り合わせだ。

「偶然なのですが、確かに令和初日ですね(笑)! 今年は重点的に中国に足を運び、古典料理をしっかり見ようと思って。それでゴールデンウィークの滞在を計画したのです」

今回、「令和」というテーマで料理を考える際にまず思い至ったのは、「先人から継承したものを、後世につないでいくことの大切さ」だと話す川田氏。日本で何度も変わってきた元号。そんな脈々と繰り返されてきた節目を迎えることで、今を生きる自分が果たすべき役割が強く意識されるという。

川田氏が作ったのは、干し鮑(あわび)の一品だ。中国料理の高級食材の中でも干し鮑は別格。そしてその一級の産地として、日本の三陸が知られてきた。「中国の料理の歴史の中に日本という1ページがあることを、日本人として意識して継いでいきたい」と川田氏。そんな思いで、この1年間ほど、腰を据えて干し鮑に取り組み、世界の各産地の干し鮑を試した。その結果、やはり三陸産は別次元と実感。
「芯にある、熟成した昆布にも似た深い香り。力強い旨み。凝縮感。どれをとっても超一級」だという。

三陸における干し鮑作りの歴史についても学んだ。

「江戸時代に製法が確立したとされますが、その前から作られていたようです。そして明治の時代に、三陸の海を舞台にした事業家、水上助三郎(みずかみすけさぶろう)が登場します」

水上は鮑を始めとする三陸の海産物の資源管理を唱え、実践した人。後世に豊かな海を伝えるよう、遺言したという。
そんな先人たちの思いを引き継ぐという意味が、川田氏の干し鮑の一皿に込められている。「この日本の豊かさが、令和の時代も、その先も続くように願っています」と力を込める。

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ラグジュアリーとは何か?

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